[概要]
金融ビックバン前後に堺屋太一が3名のエコノミストと対談した時の内容をまとめた一冊。
昔の銀行は護送船団方式と呼ばれていたが、なぜそうなったのかとそれが社会にもたらす悪影響について述べている。
中古価格 |
[感想]
日本の当時の経営の在り方として、株主を軽視していた。
株式の持ち合いでうまく成り立っている社会であり、経営効率を損ねていた。
これは情報開示が行われていないために起きた問題である。
低い収益性のままでも、株式を持ち合うことや土地を担保に資金を貸し出しを行い、金融システムをゆがめていた。
土地を基準にしか考えないことでリスクリターンが歪められた融資が行われていた。
このせいでベンチャー企業の育成が滞るという悪影響もあった。
情報開示もなく会計法も不備があったため、赤字は子会社に押し付けることで親会社は見せかけの黒字で融資を受ける事が出来た。
大蔵省としても情報開示を避けることで、日本企業の経営を陰から握っていた。
金融・企業・政府が情報を隠し、不利な情報でも融資などによってごまかす事で日本の高度成長は進んできた。
戦後直後は、産業を絞り込み大きく成長させる必要があるためにこのような密な関係は重要である。
効率的に資金を集中させることが出来る。
このような官僚統制により大きく日本企業は成長することが出来た。
しかし戦後40年以上たってもそのような関係を維持してきたがために、歪みが生じていた。
金融ビックバンや情報開示後に村上ファンドの日本テレビ買収問題などが起こり、この株式持ち合い制度の弱点が大きく露呈されたように思う。
そして情報開示が進んだ後にITバブルが日本でも始まった原因はこういうところにあるのかもしれない。
ベンチャー育成が遅れた理由としては、金融の組織文化にもあった。
融資は大企業だけに行えばよい時代の中で、新規に融資をするメリットはかなり低い。
大蔵省の指示に従えば、護送船団に守られながら利益を上げることが出来る。
失敗すれば出世が閉ざされる中で、わざわざリスクをとる必要もなく、リターンがあってもベンチャー企業の場合は数年かかるため、自分の手柄になるとも限らない。
そういった中でベンチャー企業への融資が滞っていった。
こういった文化面でも、護送船団方式は影響を与えていた。
他にも給与の面でも影響が大きい。
日本でも今人工知能開発のスペシャリストなど、優秀な社員に大幅な報酬を当て調という試みが始まっている。
護送船団方式の中で平等主義が日本に蔓延したが、こういった高給への取り組みは未だに珍しい。
平等主義で足を引っ張りあう文化はまだ古い組織の中で根付いているのかもしれない。
この平等主義も組織内だけではなく、文化団体にも根付いているように思う。
このコロナの中でも、多くの団体が文化保護という大義名分のもとに補助金という形で税金の再分配を求めている。
それぞれの団体の正当性はともかく、この状況は20年以上前から変わっていないのであろう。
という事は日本の閉鎖的な文化面は未だに変わっていないのかもしれない。
社会に貢献している文化団体ならともかく、自己利益の確保しか考えていない団体や反社会的な活動団体もあるだろう。
文化という形のないものを盾にする文化団体に従いすぎることで、市場の原理を大きくゆがめてしまうことを私たちは避けないといけない。
香港は今、アジアの金融センターの座を危ぶまれている。
日本はその代わりになるのではといわれているが、20年前からの進歩を考えると果たしてその資格はどれだけあるのだろうか。
情報開示により変わった部分も大きいが、根付いた悪しき風習もまだまだ多いような気がする。